当協議会について

1.事業の趣旨

  1. 臨床検査の標準化の必要性と本会の事業の役割

    疾病の予防、疾患の診断・治療は、主として血液などの体液中の微量成分を測定する臨床検査に基づいて行われるが、臨床検査が標準化されていない場合、同一検体であっても検査結果が検査室ごとに異なる状況が生じてしまい、適切な疾病の予防、疾患の診断・治療が行えなくなります。

    臨床検査の標準化の必要性が重視されるようになる中、アメリカにおいてNCCLS(米国臨床検査標準委員会のちにCLSIに改名)が設立され、欧州においてECCLS(欧州臨床検査標準委員会)が設立された動向を踏まえ、日本においても、我が国における臨床検査の標準化を図るため、1985年、臨床検査に関連する学会・協会等が加盟し本会が発足しました。
    その後、今日に至るまでの30年以上にわたり、本会は、標準物質の研究開発、臨床検査方法等に関するガイドライン(指針)等の策定、国際標準化に関する事業等を通して、我が国の臨床検査の標準化の中心的役割を果たす団体として認知されています。

  2. 標準物質の研究開発事業

    臨床検査の標準化を図るためには、共通の基準を用いて測定する必要があり、この測定の基準となる物質が標準物質です。臨床検査においては、体外診断用医薬品を用いて検査項目の測定を行うことになりますが、この体外診断用医薬品の製造に際しては、共通の基準である標準物質が必要となります。本会では、この標準物質の研究開発を行っています。
    厚生労働省においては、適切な標準物質の使用による体外診断用医薬品の製造を促すため、体外診断用医薬品の性能確認(較正)のために必要となる標準物質を厚生労働省告示として定めています。平成17年3月29日の厚生労働省告示第120号上、本会の開発した標準物質は体外診断用医薬品のための較正用標準物質として掲げられています。

    国際的には、標準物質の事業は、NIST(アメリカの国立標準技術研究所)やIRMM(欧州連合の標準物質供給機関)など国に準ずるような公的機関が行っており、国際的には、標準物質に関する事業は、国に準ずる機関が関与するような公共性・公益性が高い事業といえます。また、標準物質に関して、日本国内だけでなく、国際的に認められるためには、標準物質の国際登録機関であるJCTLM(臨床検査医学におけるトレーサビリティ合同委員会)の標準物質として登録される必要があります。本会の標準物質の測定項目の酵素の中には、まだ世界的な標準物質として登録されていない酵素(アルカリフォスファターゼ)が含まれているため、当該酵素に関して、現在、JCTLMへ登録申請中であります。仮に、登録された場合、日本における標準物質が世界的に認められたことになり、日本で開発した標準物質を世界的に広げることが可能となります。

  3. 臨床検査方法等に係るガイドライン(指針)等及び情報提供

    臨床検査の標準化を図るためには、標準物質だけでなく、臨床検査方法等を標準化することも必要となります。なぜなら、同一検体に対して同一の体外診断用医薬品を使用したとしても、検査を行う臨床検査室において、検体の取扱いや試薬の使用方法、測定結果の分析方法等が異なる場合、同一の検査結果を得ることができなくなるためです。
    そこで、本会においては、臨床検査に係る具体的な検査方法・手技・基準範囲等に関してガイドライン(指針)等を策定し、本会のホームページや会誌、出版物等で広く社会一般に公表しています。

    本会のガイドライン等は、病院の検査室等の臨床現場で使用されているほか、臨床検査技師や看護師学校の教材としても使用されており、臨床検査の現場における標準化に寄与しています。例えば、標準採血法検討委員会が策定している標準採血法ガイドラインは、わが国唯一の採血法のガイドラインとして、病院等の医療機関だけでなく、看護師・臨床検査技師・医師等の教育機関に広く頒布され、臨床現場における安全で正確な採血に寄与しています。また、本会は、採血法のみならず、共用基準範囲の公開や血液検査や遺伝子検査のほか、数多くの臨床検査の方法に関してガイドライン(指針)等を公表しており、臨床検査の現場における標準化にも寄与しています。

  4. 臨床検査の標準化に関連する事業への共同・協力

    グローバル化に伴い、日本国内の臨床検査の標準化だけでなく、世界各国の検査データとの互換性を確保するため、臨床検査に関して国際基準との整合性を図ることが必要となります。

    国際規格を制定しているのは、ISO(国際標準化機構)ですが、ISOにおいては、国際規格を制定するにあたって専門の技術委員会(TC)が設置されており、それぞれのTCに対しては日本国としての提案を行うための窓口が設置されています。本会は、臨床検査に関連する分野であるISO/TC212「臨床検査及び体外診断検査システム」分野と、ISO/TC272「法科学」分野に関して日本国の窓口としての活動をすることにより、臨床検査分野の国際標準化に寄与しています。

    臨床検査の標準化の分野は、多岐にわたるため、本会以外においても臨床検査の標準化に関連する事業を行っている団体があり、それぞれ共同・協力しながら事業を行っています。臨床検査の標準化においては、臨床検査室が適切に検査を行っていることが重要となるため、公益財団法人日本適合性認定協会においては、臨床検査室の技術能力を認定する事業を行っています。当該認定事業を行うにあたっての臨床検査室認定プログラム(ISO15189)の開発は、本会と公益財団法人日本適合性認定協会が共同で開発しており、その後も必要に応じて事業の協力を行っており、このような本会の共同・協力活動は、臨床検査室の質の担保に寄与しています。

2.具体的な事業の内容

本会は、臨床検査の標準化を図る観点から以下の事業を実施しています。

  1. 標準物質の研究開発事業

    次の過程に基づき標準物質の研究開発を行っています。

    ①新開発項目の決定

    本会の専門委員会、共同研究を行っている一般社団法人日本臨床検査薬協会又は一般社団法人日本臨床化学会等からの提案に基づき、新たな標準物質の研究開発を常任理事会で検討します。常任理事会の構成メンバーは、どのような標準物質を開発するか戦略を検討する標準物質戦略委員会のメンバーを兼ねており、常任理事会の決定をもって、新規の研究開発を開始します。

    ②研究

    具体的な研究は、標準物質戦略委員会の下の専門委員会において行います。専門委員会においては、候補となる物質の選定や、試作品による性能試験等を行います。

    ③開発・評価

    認証評価委員会において、標準物質の開発製造及び認証値の測定(値付け)するための測定試験を行います。認証値の測定(値付け)とは、開発製造した標準物質の基準値を決める行為であり、測定方法に関しては、一般社団法人日本臨床化学会が推奨する方法(JSCC)や国際臨床化学連合(IFCC)が推奨する方法等、様々な方法があります。認証評価委員会においては、どの測定方法に基づき、認証値の測定(値付け)を行うか検討した上で、測定試験を行い、測定結果を分析・評価した上で認証値を決定します。開発製造された標準物質に関しては、認証値を記載した認証書案及び取扱説明書案を作成します。

    ④認証

    標準物質の認証を行う認証委員会において、認証評価委員会が決定した認証値、及び作成した承認書案及び取扱説明書案を確認し、最終承認を行います。本会の委員会は、大学教授等を中心とした臨床検査に関する知識と経験を豊富に有した学識経験者から構成されています。なお、このような過程で研究開発された標準物質に関しては、外部委託により製造され、体外診断用医薬品の較正用標準物質として広く頒布されています。
    標準物質の開発製造にあたっては、JIS Q17034(ISO 17034)に基づく標準物質生産者の認定を受けており、審査機関である公益財団法人日本適合性認定協会から、定期的に維持審査を受け、標準物質生産者認定の維持に努めております。

  2. 臨床検査方法等のガイドライン(指針)等の策定

    検体の取扱いや試薬の使用方法、測定結果の分析方法、臨床検査方法等を標準化するため、次の過程に基づき、臨床検査方法等のガイドライン(指針)等の策定を行います。

    ①対象の選定

    どのような臨床検査方法(対象とする検査の分野・対象)について、ガイドライン(指針)等を策定するか常任理事会において検討を行います。常任理事会の構成メンバーは、どのような臨床検査方法等についてガイドライン(指針)等を策定するか検討を行う標準化委員会のメンバーを兼ねており、常任理事会の決定をもって、新たな臨床検査方法等の検討を開始します。

    ②検討・策定

    ガイドライン(指針)等の策定にあたり、具体的な検討は、標準化委員会の下の専門委員会において行います。当該専門委員会においては、臨床検査方法等に関する情報収集・諸課題の抽出と検討・意見調整等を行った上で、ガイドライン(指針)等を策定します。策定したガイドライン(指針)等は、常任理事会で承認を得てから公表します。

    本会の委員会は、大学教授等を中心とした臨床検査に関する知識と経験を豊富に有した学識経験者から構成されています。

  3. 臨床検査の標準化に関する情報提供

    ①学術集会

    臨床検査の標準化に関する普及啓発の観点から、標準物質に関する国内外の動向や臨床検査方法に関する標準化、臨床検査室における精度管理等、臨床検査の標準化に関連する幅広い内容をテーマに、国内外の学識経験者・研究者、厚生労働省や経済産業省等の行政担当者を講師に迎え、学術集会・講演会・シンポジウム等を定期的に開催しています。

    ②出版

    臨床検査方法等を臨床検査の現場に広げる観点から、本会で策定した臨床検査方法等のガイドライン(指針)等を出版しています。出版に関しては、どのようなガイドライン(指針)等を出版するか、常任理事会において検討を行います。常任理事会の構成メンバーは、どのようなガイドライン(指針)等を出版するのか検討を行う教育・出版委員会のメンバーを兼ねており、常任理事会の決定をもって、新たな出版作業を開始します。なお、具体的な出版物の内容の検討は、教育・出版委員会の下の専門委員会で行っています。

    ③広報等

    ホームページにおいて、適宜、専門委員会における活動報告や過去の学術集会等の講演内容の資料等、臨床検査の標準化に関する有益な情報を提供しています。なお、出版物の販売業務に関しては、一部を外部に委託しています。

  4. 臨床検査の標準化に関連する事業への共同・協力等

    臨床検査の標準化は、標準物質の研究開発、臨床検査方法等の標準化、臨床検査室の標準化など幅広いため、事業を行うにあたっては、臨床検査の標準化に関連性が深い他の団体と共同したり、相互に協力したりしています。

    ①臨床検査の標準化に関して国際基準との整合性を図るための事業を行っています。国際標準化事業に関して、常任理事会において基本的な方針を決定します。常任理事会の構成メンバーは、国際標準化事業に関する基本的な方針を検討する国際委員会のメンバーを兼ねており、常任理事会の決定に基づき、具体的には活動は、国際委員会の下の専門委員会が行っています。
    現在、国際委員会の専門委員会としては、ISO/TC212国内検討委員会(臨床検査及び体外診断検査システム分野の委員会)及びISO/TC272国内審議委員会(法科学分野の委員会)が活動を行っており、国際規格の制定にあたってISOの日本国の窓口としての役割を担っています。なお、ISO/TCの活動においては、経済産業省に設置されている審議会である日本産業標準調査会と共同で委員会の運営を行っています。国際標準化の事業は、三菱総合研究所から経済産業省の再委託事業として受託しています。

    ②臨床検査薬企業の団体である一般社団法人日本臨床検査薬協会と共同で標準化事業会議を開催し、標準物質の研究開発にあたっての検討課題を協議しています。また、標準物質の研究にあたっては、臨床化学分野の学術団体である一般社団法人日本臨床化学会及び一般社団法人日本臨床検査薬協会と相互に協力しながら共同で研究しています。

    ③公益財団法人日本適合性認定協会が実施している臨床検査室の認定事業に関して、必要に応じて本会の臨床検査室認定プログラム委員会から専門委員を派遣し、事業の協力を行っています。

    ④ISO/REMCO(標準物質委員会)の国内審議委員会(運営主体:国立研究開発法人産業技術総合研究所)に対して、委員を派遣し、事業の協力を行っています。

3.財源

受託事業収益、標準物質等収益、出版等収益、学術集会参加収益、助成金等が主な財源であります。

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